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> 魚の国ニッポンを釣る!
これほどにスズキが湾内全域に増えているのは、東京湾の埋め立てが進んでコンクリートの垂直護岸が増える中、そのような環境にこの魚の生態が適合したこと、そして、生息場所と季節によっては油臭い≠ネどと敬遠されて、釣って楽しむだけの、いわゆるキャッチ&リリースが普及したことによるものと推測される。
ひとひらの刺身は、その魚の履歴書だ。今回のスズキは、血は抜けているものの、活け越し不足で白濁している。が、釣って当日持ち帰るとすれば、これが限界であるといえよう。活け締めは、けして魔法の技術ではなく、その時なりのベストを引き出す手法だ。
沿岸回遊型のスズキは、河口域や工業地帯の排水口周りに寄る習性がある。そのためだろうか、ときとして不快な匂いをもつ。生活環境が、身につきやすいのだろう。近年に嫌う人が多いのは、そんな原因にある。
スズキの腹には、宝物が詰まっている。春先に白子を見つけたら、湯通してポン酢で食べるといい。言葉を失うほど、絶品である。皮は煮すぎないこと、1〜2秒湯引いたら冷水に取って刻む。胃袋はしっかり茹でてから、水洗いして横に細切りする。
フライパンを持ち出して、何やら講釈を始めた。やがてスズキの脂と塩の焦げる、いい匂いが立ちこめる。玉ネギが入ったらしく、匂いに甘みが加わると辛抱限界。缶ビール片手に近寄れば、思わず手が伸びる。
スズキ目・スズキ亜目・スズキ科。出世魚でセイゴ→フッコ→スズキとなる。その姿と身肉の清らかなること“ススキたる”が語源のようだ。クセのない白身は一般家庭から飲食店まで、高級食材として洋の東西を問わず重宝されている
上田勝彦
うえだかつひこ
1964年、島根県出雲市生まれ。長崎大学水産学部在学中より、長崎県野母崎の漁船に乗り始め、各地を行脚する。平成3年に水産庁入庁。南氷洋の調査捕鯨や太平洋のマグロ漁場開発、日本海の資源復興プロジェクトなどを経て、現在は、加工流通課、魚食普及・水産物広報担当官。著書に『目からウロコの魚料理』(東京書籍刊)がある。
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