美味極楽メインページ魚の国ニッポンを釣る! > 【最終回】初夏のスズキ[本牧]|活け締め∞熟成
【最終回】初夏のスズキ[本牧]|活け締め∞熟成=@魚の価値を高める
活け締め≠フ仕組みと熟成≠フ真実
Photo
 この日は3人で10本ばかりもイケスに入れた。とにかく丁寧に扱い泳がしておくことが大切なので、アゴを持ってぶら下げて写真撮影など言語道断と言いたいが、そこは雑誌だからしょうがない。
釣った魚は、当然疲れている。疲れているということは、旨味の原料となる筋肉中のエネルギー物質は消費されて疲労物質に変わっている。であるからして、より旨く食おうと思えばこそ、これを元の状態に戻してやる必要がある。 理想的にはひと晩、それが叶わぬ釣りならば、せめて港に帰るまで、静かに休ませて疲労物質を解消させてやるのがよろしく、これを「活け越し」という。健康で、しっかり活け越され、的確かつ丁寧に締められたスズキの刺身は、白濁せず5ミリ厚に切っても皿の色が透けて見え、皮ぎわから肉中に張り出す黒い血管が見あたらない。8時間前後を経過して適時に味わえば、歯をしっとり受け止めて、噛むほどにこなれる食感だ。柔らかな甘みが口中に広がるままに飲み下せば、滑らかに喉に落ちていき、次の一枚に手が伸びる。その味は、麻薬的といってもよく、だからこそ人はその味に戻ってくる。
ひとひらの刺身は、その魚の履歴書だ。今回のスズキは、料理ページをご覧になってのとおり、血は抜けているものの、活け越し不足で白濁している。が、釣って当日持ち帰るとすれば、これが限界であるといえよう。活け締めは、けして魔法の技術ではなく、その時なりのベストを引き出す手法だ。
魚は自然界の部分であるゆえに、その構造と生理に合っていなければ、いくら人間が勝手に工夫しても、安定した良い結果は出ない。獲り方、触り方、殺し方、冷やし方ひとつ、魚の気持ちになって考えて処すれば、それが活け締めの最大の要諦となろう。
旨い魚をカン違いしてはいけない
 僕が全国に神経締めを伝え始めて8年ほど経ったろうか。そもそも漁師が自らの努力で魚の価値を高める技法として広めたつもりだが、最近はいろんな商売人が、自分の値段を高めるために神経締めを謳っているのは、いささか不本意でもある。その効果のほどを一番わかるのは末端で扱う料理人や家庭の食卓であるが、活け締め魚の本当の旨さが伝わるまでには、まだ紆余曲折がありそうだ。まして、最近よく聞く「熟成」に至っては、ほとんどその真実を知る者は少ないであろうと思う。既に述べたように、魚が心身ともに自然状態に近くなってこその最大の旨み生産が得られるわけであるからして、船上で締めたもの、釣ってすぐ締めたもの、活け越しの足りないもの、魚に合わない低温や高温で活け越されたもの、血を流しながら死んだもの、いずれも二番・三番手となる。神経締めとは、「硬直までの時間を長くすることによってエネルギー物質を旨味成分により多く変換させる技術」とも言えるとおり、死後硬直が始まってしまえば旨味の総量はそこで決まり、最後まで変わることはない。つまり、この時点で上限は決まってしまうのである。「ないものは、ない」。細胞の自己消化で「舌になじみやすくなった」ことを旨みの増加とカン違いすることも、知らねばやむなきこととは思うが、料理界の誤解なき伝承を祈るばかりだ。
スズキの神経締め
釣った魚をいかに締めるか。釣果を活かすも殺すもその手法と順序次第。透明感のある白身を楽しむならば、神経締めは必須だ。
photo
釣ったあと船の生簀で休ませておいたスズキを優しくすくい、眉間からスパイクを入れて脳を壊し即殺する。
photo
すかさずエラを傷つけないようにカマ沿いの幕を包丁で切り、奥の太い動脈を切り、常温海水でしっかり血を抜く。
photo
逆さにしても血が出なくなれば、即殺した眉間の穴からワイヤーなどを入れて神経をよく壊す。海水氷に20分ほど浸けて予冷した後、魚をラップで覆い、肉に氷が直接当たらないように工夫して持ち帰る。
今回の船宿「長崎屋」
大型船3隻を使い、東京湾の釣りを案内してくれる老舗の船宿。これからの時期はシロギスやエビメバル、スズキ(エサ、ルアー両方あり)などを楽しませてくれる。交通のアクセスがよいのも魅力。
Photo
神奈川県横浜市中区本牧元町33-4
TEL 045-622-8168
【料金】乗り合いは大人8,500円から
【HP】http://nagasakimaru.web.fc2.com
Photo
スズキは食いが立てば鉛の棒に針をつけても釣れるという。ルアーの原型といえるだろう
≪1 2 3 4 5≫