シリーズ最終を迎えた今回、原稿はわたくしウエカツがメッセージを込めてまとめたいと思う。
さて、我々が出かけたのは東京湾のスズキ釣りである。なんだスズキかよ、と言われるほどに、横文字でシーバスと気軽に呼ばれ、ルアーを駆使して陸からも船からも、釣れる時には十数本も釣れ盛る攻めの釣り、という印象が定着して久しいスズキ釣りであるが、そもそもこれほどにスズキが湾内全域に増えているのは、東京湾の埋め立てが進んでコンクリートの垂直護岸が増える中、そのような環境にこの魚の生態が適合したこと、そして、生息場所と季節によっては油臭い≠ネどと敬遠されて、釣って楽しむだけの、いわゆるキャッチ&リリースが普及したことによるものと推測される。
しかし。今回のエビによるスズキ釣りは、そんなレジャーやスポーツじみた釣りとは、いささか趣きが違う。いや、まったく違っていた。乗り合った神奈川県本牧港「長崎丸」は、この釣りの草分けで、現存する数少ない船宿だ。先が柔らかく胴のガッチリ固い竿と両軸受けリールを用い、細いPEを15号の鋳込み天秤につなぐ。その先には2.2メートルのハリス、そしてヒネリのない角セイゴを結び、チモトにはヒューズを巻きつける。その針を、同じ港の底曳網から分けてもらった10センチほどのサルエビの角の先に、水平の姿勢を保つよう、ちょいと刺す。
船を操る長崎功(いさお)船長は36歳3代目。その風貌の如く、まことに機敏に本牧の港周辺から猿島、沖の中の瀬にかけて巧みに船を操り、食い気のありそうな反応を探していく。ひとたび群れに当たったなら、釣り手は指示棚にピタリと忠実に錘の水深を合わせ、静かに魚信を待つのである。誘いといえば、時折エビが、ピン、と跳ね上がるような小さく鋭いしゃくりを入れればよい。水深と魚群の反応、潮の流れに応じた指示は、刻々と変わる。そう。釣り人のウデだけではない。「船長」と「船」と「釣り人」の三位が一体となって連動してこそ、この釣りは結果を出すことができるのであった。
スズキの大きな口と躯体を見れば、さぞかし暴食を想像するであろう。たしかにルアーにはガツガツと食いつくし、小魚を追っているスズキの食い気は見ているだけでも迫力がある。が、実際に岸壁などでウロウロと餌を探している平素のスズキを観察すると、この魚が実はエサ取りが下手であることがよくわかる。船長が説明するところによると、「スズキはアタッたと思っても、ヒレで叩いているだけのときもあるし、違和感があればすぐに吐き出すからね。最初の小さなアタリを見逃してはいけない」とのことなので納得だ。