春の海は、のたりのたり。温もった土手に小さな花を見つけたら、もう冬じゃない。白波を立てていた東京湾も、さぞ穏やかだろう。
ウエカツは今、その東京湾は横須賀沖の猿島周辺でアジほか、五目釣りをしている。しかし、私は陸に残り、料理の準備。私は船の揺れが苦手である。同じ酔うなら、酒の方を選びたいタイプだからだ。
それはさておき、できればメバルも釣ってきてもらいたい。メバルは春告魚と書くほどで、ならば近隣の猿島わかめも外せない。
わかめは若芽、海の春告草であろうか。天然のわかめから種をとって培養し、養殖されたものが一般には出回っている。東京湾の猿島周りは、場所によってわかめの質がいろいろで、その中から自分が納得のいく品質の株をとってきて選抜育種≠しているのだ。
栗山義幸さん(52歳)は、猿島わかめを専業とする2代目だ。父は先駆者で、彼が産まれたころに宮城県から技術を習得して持ち帰った。今では全国に広がる様々な養殖業だが、先駆者の苦労が底辺にあることを忘れてはならない。
「猿島に生息するもっとも健康なわかめの芽株から、卵子と精子を採取してシャーレで培養します」
栗山さんの話は、まるで化学の実験室である。『芽株』とはわかめの根っこで、包丁で刻むとネバネバするアレだ。メカブといって、酒の肴にも好まれる。そこから子孫を残す胞子を発散するので、芽株と呼ばれる。培養された種苗が種ヒモに植え付けられ、細切れにされた種ヒモが太いロープに挟まれて海面に棚を作るまでが90日。11月末には一番わかめが採れ、3月末まで盛期は続く。
「1日3〜5センチ伸びるから、油断するとすぐに3メートルになってしまいます。それでも猿島わかめは柔らかく、香り高いですよ」
栗山さんは胸を張る。
わかめの保存方法
採取したわかめは、様々な保存方法で市場に出回る。
①採取したままの生わかめ
採取した瞬間がもっとも味・香りがよい。ただし保存は効かない。2日もすると溶けるように崩れる。
②生を天日乾燥
乾燥品の中では味・香りはよいが、その年の夏が越せない。カビが生えてしまうので、こまめな天日乾燥が必要になる。
③湯通して天日乾燥
生わかめを湯通すと、鮮やかな緑色になる。その瞬間をポン酢しょう油で食べるのが、わかめしゃぶ。湯通した緑色を天日乾燥させた乾燥わかめは、味・香りがやや劣るが日保ちがする。次の新わかめが出るころまでには使い切りたい。
④湯通して塩まぶし
近年人気の塩わかめは、乾燥わかめを水に戻す面倒がないからだろう。真水に浸けて十分ほどで、ほどよく塩は抜ける。浸け過ぎると、味香りが失われるので要注意。