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【第10回】〜平塚〜五目釣り|最高に美味しい! 魚の個性を引き出した4品
魚のことならお任せ ウエカツ水産&魚屋 ニシガタ ニッポンの魚“ウマヅラハギ、ヒラソウダ、イシダイ”を堪能す!
『庄三郎丸』と『あじろ』沿岸漁業の未来を想う
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 日本の沿岸漁業は、不振を叫ばれて久しい。政治的なややこしい問題はさておき、流通に目を向けると、漁業者は魚を獲るだけの事業では成り立たなくなってきたように思う。
「いくら魚を獲っても、大手スーパーなどに買い叩かれてしまいます。今のままでは漁師の後継者も育ちません」
 庄三郎丸の後藤勇氏は、農業の産地直売や道の駅を見て漁業者による魚の直売・飲食店を思いつく。
「今の時代は魚を獲るだけでなく、美味しく食べる料理方まで伝えなくてはいけません」
 熱い心意気は全国に通じて、同様な問題を抱える漁業関係者が視察に訪れる。品川の『あじろ』も同様だ。伊豆半島の網代定置網で獲れるも、知名度が低いために捨てられる多くの魚を憂い、直営の鮮魚販売店(築地)と飲食店(品川)をオープンさせた。
 日本人の魚食離れ、未利用魚などの言葉だけが祭りのように氾濫しているが、魚好きには、遠い国の出来事のように感じる。もっと、魚を! 新しい魚食の時代が到来しようとしているのだ。
 さて今回、ウエカツが向かったのは平塚沖。新しい魚食の時代に向けて、どれくらい様々な魚が釣れるのか。そしてスーパーの鮮魚コーナーには並ばないような魚も、食べれば美味しいことを伝えるためだ。
釣りも釣ったり驚異の15目釣り!
 日焼けした顔をほてらせて、ウエカツ(以下U)が戻ってきた。場所は、私が料理長を務める魚料理の店『あじろ』だ。釣果が気になる私(以下N)は、真っ先にクーラーボックスを開けた。
「うわぁ〜っ、これって船釣りの魚かぁ?」
「五目釣りどころじゃないよナ、アハハハ」
 シロサバフグ、ショウサイフグ、ネンブツダイ、スズメダイ、ヒラソウダ、ササノハベラ、キュウセン、キタマクラ、イシダイ、ウマヅラハギ、カワハギ、ブリ、マルアジ、マアジ、シイラ。干物用に使う網台に並べると、15魚種もあるではないか。
 上モノと底モノどころじゃない。船をあちらこちらと移動させ、砂底や磯場も巡ったようだ。周辺海域を知り尽くす、船頭ならではの遊ばせ方が釣果に表れている。釣り人の性格さえも、見抜いていたに違いない。
「オレはイシダイを料理したいなぁ。Nさんはどうする?」
 イシダイを取られたか…見渡して、ふむ、ウマヅラハギとヒラソウダを?む。開店まで時間がない、急げ!
上田流『イシダイの焼き切り』
 イシダイやイシガキダイの、皮の旨さを知る者は、食いしん坊の釣り人だ。細かなウロコを落とした皮を湯引き、酢味噌を添えたヌタは、酒の肴にたまらない。釣果を見たとたんに手が伸びたが、U氏に先を越されてしまった。彼は、どう料理するのか…読者もとくとご覧あれ。
 イシダイは石鯛。磯の釣り師が憧れる、磯者の王者である。表面は、強いヌメリと細かなウロコで覆われている。それらをスチールウールで洗い流し、腹ワタを抜く。下ごしらえを終えたら3枚に下ろし、頭部は2つ割りして塩焼き。サク取りした身に金串を打ち、皮面を塩焼きする。
 いろんな魚に応用される『焼き切り』だが、イシダイの皮は格別だ。噛みしめると、わかるだろう。長ねぎも添えられて、いい仕事≠している。
上田流『イシダイの塩煮』
 下ごしらえを終えた一匹のイシダイを、丸ごと油で炒める。これも、皮の旨さを損なわせない料理法だ。『塩煮』は、沖縄で言うマース煮で、味つけは単純ゆえにデリケート。塩を、あなどってはならない。塩味には、ピタリと決まる一線があるのだ。
 焼きとは違い、煮魚はほどよく身が引き締まる。動物タンパク質が凝固する前に、煮汁の味を含むからだろう。同じイシダイでも、『焼き切り』とは別魚のような食感が楽しめる。彼らは尊称を込めて石モノ≠ニ呼ばれるが、繊細な脂は少女のように、舌ではにかむ。イシダイの新たな味わい方を、U氏に教わった。
西潟流『ウマヅラの肝和え焼き』
 カワハギとウマヅラハギの違いは顔面だけではない。前者の肝臓(キモ)は煮ても溶けず、後者のそれは溶ける。その性質を利用して、ウマヅラハギ料理は『肝和え焼き』とする。
ウマヅラハギは後頭部のツノ際から包丁を入れ、脊椎骨を切断。そのまま頭部を引きちぎると、腹ワタはそっくり頭部に残る。頭部はキモだけを取り置き、表皮を剥いで塩焼きにする。
 胴部も同様に表皮を剥いだら、3枚に下ろす。中心を走る血合い骨を切り取ると、2枚の片身は4本のサクになる。これを薄切りにして、長ねぎと味噌を一緒に、叩きながら和える。
 アルミホイルに厚さ2センチほどに伸ばし、オーブンで表面が焦げるくらいに焼き上げる。塩焼きの頭部を添えたら、豪華な一品『ウマヅラハギの肝和え焼き』のできあがりだ。
西潟流ヒラソウダの『漬け丼』
 一般にソウダガツオと呼ばれる仲間には、マルソウダとヒラソウダがいる。略してマルは血合い筋が多く、生食には適さない。対するヒラは、本ガツオより好まれることがある。
「ヒラの皮を、引きやがった…」
 魚料理の駆け出しだったころ、三浦の漁師に怒られたことがあった。皮こそが噛むほどに旨い、ヒラソウダの個性だったのだ。私が得意気に出した刺し身は、魚のことを何もわかっていない一皿だったのだ。
 ヒラソウダの『漬け丼』は、私が生涯携わるようになった、魚料理の原点でもある。技巧に走るのではなく、魚の持つ個性を、あるがままに皿に盛らなくてはいけないのだ。魚を食べる喜びは、そこから始まる。
 3枚に下ろしたヒラソウダは、血合い骨を切り取って4本のサクにする。刺し身は皮ごと、やや薄切りにしてボウルに投げ入れる。長ねぎを斜めに刻み、醤油はたっぷり注ぐ。手でかき混ぜ、長ねぎは握りつぶすようにして香りを出させる。
 そのまま待つこと2分…炊きあがった飯に、たっぷりと盛る。さぁ、食え!
 カツオは鰹と書かれるが、古くは糧魚であったと聞く。まさに、腹に力みなぎる一杯だ。
 魚の個性を引き出した4品。釣果に恵まれたら、ぜひ堪能して欲しい。
漁師が教える美味しい魚料理
「平塚漁港は、漁食を広める上でも大きな働きをしている」とウエカツはいう。
『平塚漁港の食堂』は、地魚メニューで賑わい、月に一度、『地どれ魚直売会』も催す。その舵取りをした平塚漁協組合長でもある庄三郎丸の後藤勇社長曰く、「この食堂が流行ってることで、回りの干物屋やしらす屋も活性化してるよ」
庄三郎丸では魚の料理法のパンフレットも配布する。
「浜の暮らしの逞しい生きざまのモデルケース」なのである。
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平塚の海で船に乗って60年。後藤勇社長
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船宿では魚の簡単なおろし方から、美味しい食べ方まで、パンフ類の配布も
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『平塚漁港の食堂』は、地魚を使った漁師料理からイタリアンまで満喫できる
綱代の幸をまるごと食べる
 マグロ、アジ、カワハギなど馴染みの魚に加えて、サメやエイなど他では見ることも食べることも出来ない魚がショーケースに並ぶのが、ここ『あじろ 品川店』だ。網代の定置網にかかった、ポピュラーな魚から値がつかないので普通なら捨てられる魚までを揃える。腕を奮うのは、この連載でもお馴染みの西潟さん。 「刺し身、焼く、煮る…余計な味付けはしないで、魚の持つ個性を楽しんでもらいたい」とのこと。  純粋に魚の旨さを堪能したい人はもちろん、なぜこの魚はこの調理法なのか? など尋ねれば丁寧に教えてもくれるので、魚食についてさらに見識を深めたい人にもぴったりだ。  魚に合う酒も充実しており、ぜひ一度足を運んでみてほしい。
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調理場に立つ西潟氏。大きな体で、繊細な魚の旨さを引き出す
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東京都港区港南4-5-1
TEL 03-6433-3571
営業時間 17:00?22:00
休業日 土・日・祝
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西潟正人◎にしがたまさひと(文)
1953年新潟県生まれ。逗子市で地魚料理店「魚屋」を20年間営んだ後、新聞などでの原稿執筆やTV出演などをするように。著書に『ウツボは笑う』(世界文化社)、『日本産 魚料理大全』(緑書房)などがある。
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