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【第1回】駿河湾 駿河サバ|ブランドになるだけの旨さを秘めた魚“駿河サバ”を堪能す!
魚のことならお任せ ウエカツ水産&魚屋ニシガタ ニッポンの魚“駿河サバ”を堪能す!
ウエカツ氏が釣り上げ、丁寧に神経締めした駿河サバ。気になるその味わいをいざ試さん! ここからは、あらゆる魚を調理し食した魚屋ニシガタこと、西潟正人氏にもご登場願い、締めサバ、棒寿司など、サバを満喫できる料理を教わった。
西潟正人◎ にしがたまさひと(文・調理)
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1953年新潟県生まれ。逗子市で地魚料理店「魚屋」を20年間営む。その後、東京新聞、日刊ゲンダイの連載執筆やTV旅チャンネル「漁師町ぶらり」のナビゲーターなどを手がける。『釣魚料理図鑑I&ll』(エンターブレイン社 刊)、『魚で酒菜』(小社刊)など著書多数。
ブランドになるだけの旨さを秘めた沼津の希望の魚なのだ
新たなブランド魚“駿河サバ”を陸で追う
西潟(以下N)「駿河サバって、なんだぁ?」
上田(以下U)「ゴマサバに恋をした沼津の漁師がいて、彼らが名付けたんだよ」 
 サバは一般的に「マサバ」と「ゴマサバ」が知られ、後者はいわゆる“外道”扱い。最近ではスーパーにも出回るが、釣り人がバカにしていた記憶は新しい。しかし…
「夏の“ゴマ”は、旨ぇぞ」
 船頭に耳元でささやかれたのは20年ほど前。食べてみればその通り。以来、ゴマサバを投げ捨てる釣り人を哀れに思うようになったのは言うまでもない。
 日本列島沿岸に広く分布する「マサバ」に対し、「ゴマサバ」はやや南方系。産卵期も異なるので、夏に脂がのることはあまり知られていない。
「釣って、食べてみんべぇか」
「オレ、船酔いすっから、釣りは任せたっ!」
 私は港に居残りだ。
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港から見た「びゅうお」。上は展望台で、沼津港が一望できる
港でも食堂でもなく出合いはスーパーで
 沼津港の出港口に凱旋門のごとくそびえる、水門「びゅうお」は日本最大級を誇る。地上からの高さ約30メートルの、展望回廊に上ってみた。入場券は、大人100円。駿河湾を一望でき、沼津港が足下に見える。
 隣接する漁港は卸売市場を兼ね備え、海産物販売コーナー「沼津みなと新鮮館」につながる。“駿河サバ”を探して歩いてみると、周辺は観光地さながら。数十軒もの「魚屋」が軒を連ね、客を呼ぶ声が方々から攻めてくる。
「魚市場関係者の食堂から、広まったんですね。漁港は今や、観光との共存です」
 沼津魚市場株式会社の総務部長、岡田眞さん(59)は現状に満足そうだ。
 しかし、“駿河サバ”がない。意を決して街を歩き回るも、魚屋がない。スーパーの魚売り場に、「ゴマサバ」は堂々と並んでいた。
 日はすでに暮れているが、釣り人は頑張っている。ここで買っては、失礼だろう。
 午後7時、ようやくサバが釣れだしたと海上のU氏から朗報あり。あぁ、買わなくてよかった…。
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魚市場近くの土産物屋で売られていたカサゴの唐揚げの山
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スーパーには大量のゴマサバ。しかし、すべて三重産だった……
釣り立て、締めたての“駿河サバ”を食す
 サバが“生き腐れ”などと言われるのは、鮮度が落ちやすいからだ。乱暴に扱うと、例え新鮮でも“腐った”ように身が崩れてしまう。
「締め方だけじゃないよ。釣った後の持ち運びの際も、すべての扱いが、サバの味を左右させるね」
 包丁を握っている横で、U氏はうるさい。しかし、前夜にU氏が神経締めしたゴマサバは、ほれぼれするほど輝いている。腹に触れても、パンと張っている。おおっ庖丁人の武者震いが伝わらぬか!
 左指で軽く頭部を押さえ、出刃包丁の刃先でヌメリとウロコをこそぎ落とす。家庭用の軽い包丁を使うと、ついつい力を入れてしまうので注意しよう。
 水洗いしたら胸ビレの際から、前方向に鋭角に包丁を入れて首骨を切る。反対側からも同じように包丁を入れ、頭部を落とす。
 腹を肛門下まで開き、内臓を抜き取る。背骨に付着する血合いを切り、よく水洗いする。
「Nさんよぉ、一般家庭じゃササラなんて使わんさ。使い古した歯ブラシにしなよ」
 歯ブラシに取り替えると、サバには使い勝手がよく、柔らかい身にダメージを与えない。無言で納得。関心しながら、下ごしらえを終える。サバの水気を拭き取ったら、三枚おろしだ。
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サバが締まっていく時間それは夢見る時間である
 魚を、力で押さえつけないこと。背ビレ際の皮を切ったら、腹側から開いていく。中骨の位置を包丁で確かめながら、背骨の山を越え、片身一枚をおろす。反対側も同じ
ように開くと、中骨1枚と片身2枚で三枚おろしだ。
「すっげぇ! サバの身が透き通っているよ」
「扱いの違いで、ゴマサバも生き返るってことよ。全国の漁業者に、ぜひ見て欲しいね」
「このまま、食いたいねぇ」
「刺し身は、塩で締めるだけで変貌するんだな。これを“塩の魔術”という」
 聞いているふりをして、塩締めの準備をする。気温の高い季節は、締まる時間が早い。腹骨は残したまま締め、仕上げに切り取るといいだろう。  
 極上のサバが、塩と酢で締まっていく時間の経過が好きだ。控えめに酒を酌み、こちらも“夢”に浸るとしよう。
サバを三枚におろす
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包丁の刃先を使い、表面のヌメリとウロコを丁寧に掻き落とす。
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胸ビレの際から包丁を入れ、腹ビレと一緒に頭部を切り落とす。
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背骨に付着する“血合い”を切る。
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“血合い”や“粘膜”を、歯ブラシを使い、こすって洗い流す。
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背ビレ際の皮を、尾ヒレまで切る。魚を強い力で押さえないように気をつける。
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腹側から、中骨に沿って包丁を入れ、身を開いていく。
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2枚の片身と、中骨で、三枚おろしとなる。
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神経締めしたサバを丁寧に捌くと、身には霜が入っている。これが脂ののっている証拠。
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