シェフがランチに作った料理。@タケノコ焼きジェノベーゼソースとドライトマト風味。Aニジマスとタケノコのごま油焼き。B川魚の梅干し煮込み。C頭と内臓の味噌スープ。Dヤマメの白ワインヴィネガー〆。Eヤマメの塩焼きジェノベーゼとすだち風味。Fヤマメのタケノコの皮包み焼き。Gニジマスのかば焼き
シェフは釣り上げた魚をスピーディに捌いていく。ところが、内臓を取り出す作業は妙に慎重だ。臓器一つひとつを確認しながら、「胆のうは苦いから要注意」「お、白子が入っているね」「この内臓、脂がいいコクになるんだ」と選り分けていく。どうやら内臓も使う気らしい。
折しも、釣り場の横に広がるワサビ田では珍しい収穫作業が行われており、立派な葉付きのワサビをいただいた。加えて、採れたてのタケノコの差し入れもあり、期せずして地の旬の素材でにぎわった。
シェフはお腹にニンニク味噌を詰めたヤマメをワサビの葉、さらにタケノコの皮で包み、炭火でホイル焼きにする。はたまた、内臓と頭を集めて煮込み出す。調理の様子を見ていた管理人の渡辺勲さんは感心しきりだ。
「タケノコの皮にしても内臓にしても、真っ先にゴミ箱に捨ててしまっていたものが、こうして食材として大切に扱われ、料理になっていくなんて衝撃です。身近にある食材の新たな可能性にもっと目を向けなければ、と思います」(渡辺さん)
――シェフ、素材を使い切るというのは、料理人としてのポリシーなんですか?
「無駄なく使いたいという自然への尊敬や感謝の気持ちも当然あるけど、そもそも食材として美味しいから使っているんだよ。その部位ならではの味わいがあって、上手く調理してあげれば、料理に味の深みや広がりをもたらしてくれる。目玉や骨も入っているから栄養的にも優れたものになるしね。もちろん、これはモノがよくなければできないこと。ワサビ田にも使うきれいな水で育った素晴らしい魚だから、新鮮なタケノコだからできる、都会ではなかなか実現できない贅沢な料理だね」
喜々として料理を作った後は、自らは昼食も摂らずに釣りを再開するシェフ。寸暇を惜しんで釣りたいという根っからの釣り好き
食材がよければ腕も鳴るのだろう。事前に用意していたドライトマトと菜の花のジェノベーゼソース、ケッパー、すだち、わずかな調味料、フライパン一つで、シェフは釣果を生かした全7品を作り上げた。川魚定番の塩焼きもシェフの腕にかかれば、ジェノベーゼソースをまとった立派なイタリアンに。白ワインヴィネガーの酢〆のほか、かば焼き、蒸し焼き、煮込み、スープと火の入れ方も多彩だ。どれも川魚特有のクセはまったくなく、皮から出る旨みも吸い込んだ上品な肉質がしみじみ旨い。
――シェフは『釣りキチ三平』の筋金入りの愛読者ですから、渓流釣りに人一倍憧れているのは知っていますよ。今回、あえて管理釣り場を選んだ理由は?
「海釣りは僕のような素人でもそれなりに楽しめるけれど、渓流釣りは生半可にやってはいけないと思うんだ。素人がいきなり山に分け入って糸を垂らしても、魚は馬鹿じゃないからまず技量的に釣れない。それに足元が滑りやすくて、頭を打ったり流される危険性もあるし、ヘビやハチなんかに出くわすこともある。自然の山に入るのは、釣りの技術と自然の中で安全に過ごすための経験値を備えてからにすべき。安全に技術を学ぶことができる管理釣り場で経験値を上げたいと思ったわけ」
なるほど、ここは本格的な渓流釣りのトレーニングにまさに打ってつけの場所だ。
「バーベキュースペースも備えているここのように、火を使った調理をその場で楽しめるのも管理釣り場のいいところ。ぜひ多くの人に、いろんな料理に挑戦してもらって、川魚の美味しさを知ってもらいたいね」
釣り上げた魚はその日のうちに、三枚おろしや筒のままルイべ(魚の身を冷凍し、刺身で食べる調理法)にするなどの下ごしらえを済ませた。そして翌日、たった1日前は清冽な渓流で泳いでいた魚たちは、初夏の風を感じさせる渾身のイタリアンとなった。
「ま、食べてみなよ」と、少し日に焼けたシェフはいつにも増して楽しそうだ。その笑顔を見て、味見させてもらう前から、もうわかってしまった。それがとんでもなく美味しいってことを。
竿は「ダイワリバティー万能小継43Q」を使用。釣りのポイントとして、簡単に釣れるイメージがある管理釣り場だが、エサの種類の交換、ハリスを細くするなどのテクニックで釣果が大きく変わります。
ヤマメ、アマゴ、イワナ、ニジマスを狙える自然渓流と池を完備。ルアー・フライ、エサ釣りに対応。
山梨県大月市七保町奈良子10番地
TEL:0554-24-7636
HP:
http://www.narago.jp/