何とかやるしかないだろう……。
魚料理は磯魚ほど、その魚の個性を活かした方がいい。今回のアイナメはゼラチン質の強い魚だ。その成分は主に皮に含まれており、煮付けにすると、翌日にしっかりとした"煮こごり"になるのはそのためだ。固いからと皮を捨ててしまったりすると、アイナメ料理は生きてこないのだ。
「皮も食べるんですか?」
日々アイナメを食べ慣れている地元の方も、これは目からウロコだったよう。メモを取る方々に、
N「皮だけではありません。魚の腹には宝物が詰まっているんです。肝臓や胃袋も捨てないで下さい」
N「アイナメの煮付けは唇が醍醐味。唇がぷっくり膨らんできたら、出来上がった証拠です」などなど説明する。
U氏も「炙った皮が美味しいんです」「わさび醤油でなく、にんにく醤油、レモンと塩で締めても旨いです」などと、大きな声で料理の説明をしている。だが、地元の方に囲まれてその姿は見えない。カメラマンはあっちへ跳んだり、こっちへ来たり。あれもこれもと撮影中。
なんとかアイナメ料理が大島の名物のひとつになってくれれば。作る側にも、教わる側にもそんな思いがあり、みな、汗だくだ。
そして1時間後。刺身に煮付け、炙りなどいくつものアイナメ料理が完成。それまでアイナメが?
と半信半疑だった表情がすっかり驚きと期待に変っている。
「小さなアイナメでもこんなに刺身ができるんですか? 感動です。それに何より美味しい!」
N「色んな魚に、応用できるんです。東北地方の海には美味しい魚がたくさんいます。小魚だからって、捨てたモンじゃないでしょ?」
山間の旅館に泊まっても、山菜などは都会の人に失礼だ……などという考えがある。漁師町でも、土地の魚は隠れたままだ。
小皿の枚数だけが多い料理など、もはや"ご馳走ではない"。20センチのアイナメ一匹の料理で、島の方々は目を見開いてくれた。感動をもらったのは、ボクらも同じだ。
「春先の真っ黄色なアイナメは食うけどなぁ……」
「そりゃ、卵を守っているオスですよ。食べちゃダメ! 海から、アイナメがいなくなっちゃうよ」
「ありゃ……。今日みてぇな小さなモンで商売になれば、無理に捕らんでもエェ。アハハハ……」
みなさんの笑顔に、疲れなんて吹っ飛んでしまう。ビールが旨い!