美味極楽メインページthe chef and the sea > Vol.15「春が待てない、離島で磯釣り」編|ウツボの真の姿
その身、繊細かつ、お上品。 ウツボの真の姿
the chef and the sea
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見事ウツボをゲット。「今回はウツボ料理にしよう!」と大喜びのシェフ。強力なアゴと鋭い歯を持つウツボは非常に危険なので、釣り上げたあとも慎重に
その身、繊細かつ、お上品。
ウツボの真の姿を見よ!
いざ作戦変更!
足元のウツボを仕留めよ
「遠足みたいで楽しいな!」と元気に先頭をゆく、シェフ。魚群を追って船頭の合図で一斉に糸を垂らす船釣りもワクワクするが、好きな場所で気ままに楽しめる磯釣りもまた、いいものだ。
 安全に磯釣りを楽しむための約束事を確認しておこう。必ずライフジャケットを着用すること。その種類も重要で、膨張式ではなく、浮力材の入ったベストタイプが必須。膨張タイプは岩場に打ち付けられると簡単に破れてしまうが、浮力材ならその心配はなく、体の保護にも役立つ。さらに、落水の勢いや波にもまれて脱げないように、股ベルトをしっかりつけることも肝要だ。
 そして決して海に背を向けたまま作業するべからず。いつ高波がやってくるかはわからないから、常に波の様子への注意を怠ってはならない。
 さて、オキアミのコマセを撒き、やはりオキアミを付けた仕掛けを投げる。ほどなく「これ、きたかな!?」とシェフの声。竿がしなっている。「きたよ!」とこちらを見る目が「大物ナリ、助ケヲ求ム」と語っている。タモを持って駆けつけると、格闘していた相手がピョコンと釣り上った。ミニサイズのメジナだ。シェフ、ちょっと恥ずかしそう。
 潮や波の動きによって、魚が集まる場所は刻々と変わっているようだ。そこにハマるとアタリが多くなる。「やったー、今度のは食えるヤツだぞ」とシェフは手のひらサイズのメジナを釣り上げた。小ぶりながらもウミタナゴも釣り上げたようだ。
「ウツボだ!」という叫び声を聞いて視線の先を見ると、崖下に大きなこげ茶の魚体がゆらりと動き、糸がプツリと切れた。
 ならば仕留めるべしと、ダイワのO氏はすぐさまウツボ仕様の仕掛けを作ってくれた。メジナ釣りを続けながら、ウツボを置き釣りで狙い、二兎を追う。忘れた頃に置いていた竿がガタッと動く。ウツボに竿を持っていかれそうになるのをシェフが慌てて飛びつき阻止する。「すげえ引きだあ」と楽しそうだ。

 ウツボはしばらく驚くほどの力で抵抗するが、突然諦めてしまうのだろうか、大根を抜くようにスポンッと一気に釣り上げることができる。コマセで集まってきた小魚を狙ってウツボも集結したのだろう。なんと、立て続けに3本のウツボが釣れたのだ。
高知などでは食べる人も多いウツボ。こんな出で立ちだけど、唯一無二の旨さ
皮目はプルプル
身は繊細かつ旨み凝縮
 後日、城ヶ島のウツボはキレイな切り身になっていた。
「ウツボ、初めて扱ったけど最高だよ。海の状況がよかったのか、いいエサを喰ってたみたいで臭みはまったくなし。ハモよりうまいよ、このウツボは」
 ウツボはとても味のよい魚だが、調理が難しいとされている。全体の3分の1くらいの尾っぽのほうに爪楊枝のような硬い骨が密集するためおろすのが一苦労で、料理に使える身の歩留まりも悪い。しかし、ポイントを押さえれば簡単だとシェフは話す。
「エラから肛門までは面倒な骨がないから普通に切り身にできる。肛門から先は煮込んでスープにするか、軽く火を入れてから骨を抜いて、すり身として使うと無駄なく味わえる。そして、この硬い皮がいちばんのご馳走。火を入れるとプルプルになってめちゃくちゃ旨いんだよ」
 ウツボとメジナ、ウミタナゴは、釣りの帰りに買い込んだ三浦の野菜と一緒に、春の訪れを感じる3品の料理になった。ウツボそのものの味が楽しめるサラダ、プルプル食感の煮込み、ふきのとうの香りをまとったフリット。シェフ、いつもありがとうございます。
 ウツボ、あの強面からは想像もつかないほど上品かつキョーレツな旨み……。ままならぬ釣りが生んだ妙味に感謝!
時折かかったクサフグ。かわいい顔で和ませてくれる
良型だと40cmオーバーが釣れるメジナ。今回は手のひらサイズが数匹釣れた
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