美味極楽メインページthe chef and the sea > Vol.14「晩秋のイシダイ釣り」編|釣り人たちの憧れ、イシダイ
引き味強烈、美味さ鮮烈 釣り人たちの憧れ、イシダイ
the chef and the sea
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強い引きにビックリ、釣り上げてあらためて驚くビッグサイズ。うれしい!けど、ホントに自分で釣ったの!? という微妙な笑顔
引き味強烈、美味さ鮮烈
釣り人たちの憧れ、イシダイ
波間に浮かぶ小舟で
大物一本釣りの勝負開始
 船は6人でチャーターOKの小型船で、魚群探知機を使わずに、船長の経験と勘でポイントを決め、錨を打って一箇所でじっくり勝負する。仕掛けは至ってシンプル。2本の大きな針と錘のみ。エサは三浦半島城ケ島で味噌汁などで食べられているアマガニ(オニヤドカリ)を使う。サザエのような硬い殻をカナヅチで叩き割り、アマガニの本体を取り出す。ハサミと脚をちぎり取って、1本の針をアマガニの頭から、もう1本の針をお尻から刺す。これで完了。
 水深は約20m。錘を海底まで落とし、イシダイ特有のアタリを捉えたら、グッと引いて針を魚の口に引っ掛けて釣り上げる。イシダイのアタリは大きな魚体に似合わず小さく微妙なため、この「アタリをとる」という動作の成否が釣果に直結する。これにみんなが苦戦した。
 アタリがきたと思って竿をぐっと引き上げても空振りばかり。エサを確認すると、キレイになくなっている。トントンとかプルプルという反応があることから、エサ取り名人のカワハギも多いようだが、アマガニの硬い頭の部分もなくなっているところを見ると、イシダイも喰っているのではないかというのが船長の見立てだ。
「イシダイのアタリはモゾモゾモゾモゾって感じの不思議な感覚なの」という船長の言葉に、シェフは「え〜、わかんないなあ」と首を傾げる。ちょっと焦りも見える。
 そんな時、編集U氏の竿が大きくしなった。見るからに尋常ではない引きだ。ガタイのいいU氏も「うぐっ、うぐっ」と全身を使って格闘し釣り上げたのは、幅広の縞々が美しく輝くイシダイだった。
 「またU氏かよー!」とシェフの声が海上に響く。確かに、いつもいつも誰も釣れない状況でU氏が美味しいところを持っていく。もはやお約束になりつつある。
「正直に言う。今僕には、悔しさと怒りと悲しさ、寂しさという感情が渦巻いている」と嘆くシェフ。
甲殻類も噛み砕く硬い口を持つイシダイ。老成して大型になると、縞模様は不鮮明になり、口の周りが黒くなる。別名クチグロの由縁だ。
3人でイシダイが7尾、カワハギやメバルなどが釣れた。
ーーそれは、要するに「嫉妬」というやつではないでしょうか。

「そうとも言うな(苦笑)」
 嫉妬に苦しむ釣り人に、船長が手を差し伸べる。シェフの竿を使ってお手本を見せてくれた。
「こう錘を落とすでしょ、で、アタリがわかるように竿と糸を90度くらいの角度にして……ん? この反応は違うか、……これはアタリかも……」とその刹那、竿を持つ両腕を大きく頭上後方に振り上げ、船長はエア・バックドロップをかました! そして「はい」と竿をシェフに手渡すと、激烈な引きにシェフは悲鳴を上げる! 20mの糸が恐しく重い。格闘の末に立派なイシダイを釣り上げた時には興奮。そしてグッタリ。
 これがアタリと思ったら、バックドロップの勢いで合わせないと、イシダイの硬い口には針が刺さらないそうだ。船長がアタリを合わせ、シェフが巻き上げるというお手本の釣りがもう一度繰り返され、瞬く間にシェフの手元には、非正規入手の2尾が並んだ。
 だが、シェフはここからの挽回がすごかった。「お、いけたかも!」と単独で釣り上げ、さらには「今のはアタリがわかったぞ!」とこの日最大の獲物を見せつけた。
 今、思い出しても嫉妬します。
この日のナンバーワンはシェフが釣り上げた体長58cm! 丸々としていて見るからに旨そうだ。
最重量は3.4kg。船長のお助けなしでシェフが釣り上げた
上々の釣果とあってご機嫌の有馬シェフ。駐車場にいた猫とも笑顔で記念撮影です
骨から腸まで滋味たっぷり
イシダイを味わい尽くす
 帰り道、イシダイをどうやって食べたい? と聞くシェフに、天ぷら、鮨、出汁が味わえる汁、炊き込みごはんと好き勝手答える厚顔無恥な面々。シェフはそんなリクエストに完璧に応えてくれた。
 天ぷら(フリット)と炊き込みごはん(リゾット)を合体させた天丼に、バター香るお椀、鮨のように楽しめる湯ぶりした切り身……我がままをききながらしっかりイタリアン。生では洗練された白身の美味さを、火を入れては鶏肉を極度に上品にしたような旨さを見せるイシダイ。持ち味を生かし、秋風香る千変万化の調理、ありがとうございます。
 これら3品に共通するのは、すべてにイシダイのあらからとった出汁が生かされていることだ。
「この手の魚の最大の特長は、あらから出る旨み。それをしっかり引き出して、今美味しい新米や根菜にしっかり吸わせてあげたかったんだ。もちろん身自体も抜群だし、大腸も豚のモツに負けない旨さ。捨てるところがない魚だね」
 余ったアマガニも持ち帰って添えるなんて、さすが食材をとことん使い切るシェフ流献立の真骨頂。その料理の才にも嫉妬します。
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