美味極楽メインページthe chef and the sea > Vol.11「初春の奄美大島 五目釣り」編|シロダイに微笑む
思わぬ大物
シロダイに微笑む
the chef and the sea
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数はそれほど上げなかったシェフだが、この日一番大きなシロダイを釣り上げて面目躍如。この笑顔、心からの笑顔!
スジアラを狙えど釣れず
思わぬ大物、シロダイに微笑む
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エサで釣り上げたナミフエダイ。
ソテーにして美味しくいただき ました
地元食材を大活用したシェフ理想の調理体験
 奄美大島での滞在中はシェフのたっての願いで、川の汽水域や堤防でも時間の許す限り、ルアー釣りやエサ釣りにも没頭した。こちらは残念ながらナミフエダイ1匹という淋しい釣果だったが、シェフの表情はすがすがしい。
「そう簡単に釣れるものではないってことがわかった。僕のルアーの投げ方では、疑似餌が魚にニセモノってことがばれているということだよね。魚はいるんだよ、間違いなく。ウミガメと同じくらいの長さの魚も見えて、あれがかかったらどうしようと焦ったけど、僕のルアーじゃまだまだ喰いついてもらえないな。もっと練習してリベンジします!」
 釣り上げた魚での料理は、最終日に、お世話になった民宿『結いの家』のキッチンを借りて行った。魚以外の食材は地元のスーパーマーケットをめぐって調達した。調理を進めるシェフの手には迷いがない。それまでの奄美大島滞在でインスパイアされたオリジナル3品が、頭の中にはすでにしっかりと描かれている。
 今回一番の大物、シェフが釣り上げたシロダイはアクアパッツァになった。アクアパッツァといっても、「加那」(西平酒造)をはじめ地元名産の黒糖焼酎がめっぽう合う、奄美仕様の特別バージョン。
「基本的には塩味だけなんだけど、その塩みは奄美の海水の塩分のみ。要は地元奄美の塩と水で再現した、海水で炊いた料理なんだ。風味付けに黒糖焼酎と『結の家』のお母さんお手製の梅干し、そしてトマトだけとシンプル」 ホクホクとした白身は黒糖焼酎のほのかな香りをまとって旨みたっぷり。一緒に炊き込んだ奄美特産のフキもいいアクセントになっている。
 居酒屋で食べた刺身から発想したというのがカワハギの料理だ。奄美大島では伝統的に刺身を醤油ではなく酢味噌で食べる。生姜の風味が効いた酢味噌はなんとも爽やかで、魚の個性もいい具合に出ているね、なんて話を作戦会議という名の宴席でした記憶があるが、もう自分の技として出してきた! カワハギの肝を、これまたお母さんからおすそ分けしてもらった手作り味噌、タンカンの搾り汁と混ぜてソースに。湯ぶりしたカワハギの身にたっぷりとかけていただく。地元で愛される葉ニンニク”フル“と一緒に食べると、今まで経験したことのない奥行きのある味わいにうっとり。シェフ、お酒の時間も勉強してたんですね。ありがとうございます。
 最後は『結いの家』の庭で育てられたパパイヤと長命草が大活躍の一品。ハタのソテーにのせたのは、奄美の伝統的な保存食である塩豚でとったダシを吸わせた青パパイヤとタウム(田芋)。長命草をイタリアンパセリの代わりにあしらった。
「居酒屋で食べた塩豚と厚揚げ、大根の塩味の煮物がしみじみ美味しいなあと思ってね、塩豚を使ってみたの。それと、お母さんが朝ご飯に作ってくれた青パパイヤの炒め物からもヒントをもらって作ってみた」
 ハタの上品で強い旨みに塩豚から出た脂が追加されて……奄美の海山タッグに感服です。
「肉や魚を取り寄せてその土地の郷土料理をアレンジするのは難しくはないけれど、その土地の水と調味料を使って作るのは簡単にはできない贅沢な調理なんだ。地元の人が知っている地元食材の美味しい食べ方を理解するには、この調理を実際にやってみないといけない。奄美では釣って、調理して、食べて、理解するところまで楽しめた。最高の釣りになった」
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宿の近くの漁港や堤防、川では、当連載で初めてとなるルアー釣りを楽しんだ。ウミガメも泳いで応援しにきてくれたが、釣れたのは小物1匹のみ。まずはルアーをまともに投げられるようになることという目標ができた
今回の宿泊先「結の家」
奄美空港から車で約20分、大島紬発祥の地、龍郷町にある民宿。埼玉県から移住したご夫婦が切り盛しており、自家菜園などで採れた野菜をはじめ、地元食材をたっぷり使った朝食をいただける。海岸までは徒歩2分。釣り三昧のベースキャンプにぴったり。
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