海は次第に波が高くなり、うねりも出てきた。うっかりすると海に投げ出されそうなほど船は揺れている。シェフは足を踏ん張って、粘る
「釣り竿は一方に釣り針を、一方の端に馬鹿者をつけた棒である」
これは18世紀英国の文学者で批評家、サミュエル・ジョンソンの言葉。釣りに熱中する人を冷静に表現した名言だ。有馬シェフ率いる食楽釣り取材班は、年に数回その馬鹿者になっている。シェフはこの連載が始まってから、時間を見つけては渓流釣りに出かけていると言うから、年10くらい馬鹿者になっているはずだ。
馬鹿者とは失礼じゃないか! なんて思わない。釣りの前日はウキウキして眠れないし、風呂の中で無意識にイメトレしてしまったりするから。シェフは深夜に及ぶレストランでの片付けや仕込みを終えて、すぐに休めばいいのに、座右の書『釣りキチ三平』を読み返してしまう。アジ釣りへ向かう朝、顔を合わせたみんなの目が赤い。そう、私たちは釣りを愛する馬鹿者なのである。
門前仲町にあるシェフの店から、浦安の船宿「吉野屋」へとクルマは向かった。
「吉野屋さんでしょ、ここからなら2回曲がるだけで着くよ」とシェフ。門前仲町からほど近い浦安は、シェフが小学校から過ごした地で、独立前にシェフを務めたレストランがあった場所でもある。
「僕が育った頃の浦安は埋め立てが進められていて、立ち入り禁止で手つかずになっていた広大な土地が鬱蒼とした森になっていた。そこには、カラーひよこから成長して家で飼えなくなったニワトリがよく放たれていたの。そのニワトリを捕まえる遊びが流行ったのだけど、犬もたくさん捨てられているから、野犬化したシベリアンハスキーに追いかけられてさ。でもあいつ、顔は怖いクセに足は遅くて意外と平気。本当に怖いのはマルチーズだね、素早くてしつこい。汚れた雑巾みたいのが超高速で襲ってくるんだよ」
シェフの武勇伝にゲラゲラ笑っていると、もう着いた。
浦安での釣りの思い出といえば、釣り人が落としていった針や糸で即席した釣り具で狙ったハゼ釣りだったとか。今日は子ども時分に恨めしく見ていた大型釣り船で、威風堂々と沖合へ出漁だ。
竿は細くても高い強度を誇り、幅広い対象魚に対応したダイワ「ライトゲームX V MH-190」。リールには船からの小物釣りを快適に楽しませてくれるダイワ「PREED 150H」を使用し、コマセで集めたアジを赤短やイソメで狙う!