美味極楽メインページthe chef and the sea > Vol.05「晩夏の鮎釣り」編|鮎で鮎を釣る
「海老で鯛を」ならぬ 鮎で鮎を釣る
the chef and the sea
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開始から5時間超、ようやく釣れた記念すべき1匹目。黄金色に輝く美しい魚体に感動
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昼食時、小峯おとり店の方が作った鮎の干物を楽しそうに焼く有馬シェフ
川の中の状況を読み
野鮎の動きを読む

 昼ご飯を大急ぎで食べたシェフは、「じゃ、僕は行ってきまーす」とまた川へ繰り出した。どうせ釣れないよと言われても、目の前に川があって釣り竿があったら、竿を出さずにはいられないのだ。シェフはいつもそう。炎天下もなんのその。
 陽が少し傾いた頃、強力な助っ人が現れた。今回お世話になっている小峯おとり店の店主で、鮎釣りの達人である小峰和美さんだ。小峰さんは「この位置からあそこのポイントへオトリ鮎を入れて」と具体的に指示を出す。「竿はこれくらいの角度で動かさないで」とアドバイスに忠実に従っていると、間もなくグンッと強い引きが! 今度はしっかり竿を立てて2匹の鮎を引き寄せ、しっかりとタモに収めた。
「やったー! うれしい! オトリ鮎はよく頑張った。ゆっくり休んでくれ」
 オトリ鮎は友フネという容器に収め、代わりに釣れたばかりの野鮎をオトリにする。たった今まで川にいた鮎だから元気いっぱいだし、自分の川だから活発に泳ぐ。すると、他の野鮎に攻撃される可能性も高くなり、また釣れる。オトリ鮎をどんどん新たに釣れた野鮎に替えていくことで好循環を生み出す。これが鮎の友釣りの理想形だ。
知る人ぞ知るそのうまさ
東京の夏を告げる
香り豊かな“江戸前鮎”
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 結局、シェフは4時からの2時間弱で4尾を釣り上げ、料理用の釣果はなんとか得られた。が、タイムアップを迎えたシェフは悔しそうだ。
「4匹とも小峰さんに竿の動きまでしっかりサポートしてもらった時に釣れたやつ。自分の力だけでは1匹も釣れなかった。甘くはないなあ。でも、この釣りはハマる。鮎釣りファンが多い理由もよくわかった。いくら鮎の群れが見えていても、そこにオトリ鮎を行かせたところで釣れるとは限らない。石の様子を含め、その時の川の中の状況を的確に読まないといけない。ゲーム性が高いとも言えるんだけど、遊びというより自然と勝負している感覚。これは、もはや”試合“だね」
 都心へと帰る車中で、シェフは鮎釣りをやってみて本当によかったとしみじみ話す。
「これまで全国のあちこちで鮎釣り漁師さんの仕事ぶりを見学させてもらってきたけど、今回、その仕事の価値を体感で知ることができたのはものすごく大きい意味をもっている。30pもある友釣りの天然鮎は、価格が養殖ものの10倍近くすることもあるんだけど、そんな立派な野鮎を釣るためには、あまり釣り人が入らない奥地を攻めなければいけなくて、手間も時間もかかるし、もちろん危険度も増す。毎回好条件で釣れるわけではないし、そりゃ高くなって当然なんだよね。天然の鮎はそれだけの価値があるということがよくわかった」
 今回の釣りでは、もうひとつ大きな収穫があった。秋川の天然鮎の美味しさに気付いたことだ。小峰さんが釣り上げて冷凍保存していた鮎を塩焼きでいただいたところ、その美味しさにシェフも唸った。秋川は鮎の生育環境として良好であり、近年は全国の鮎の品評会で上位入賞を続けているそうだ。知る人ぞ知る東京産の鮎、いわば”江戸前鮎“として巷間の注目を集めるのも時間の問題だろう。
 翌日、シェフは江戸前鮎で5皿の料理をつくり上げた。
「鮎を丸ごと楽しむなら塩焼きが一番。でも、内臓まできちんと火を入れて身をふっくら仕上げるのは、炭火じゃないとむずかしいんだ。今回の料理は家庭でも意外と簡単につくれるものばかり。特にフリットや身たたきは、手軽に鮎を丸ごと堪能できる。小さい鮎にも適した調理法だね。できれば、3枚卸にしたくなるような大きな鮎を釣りたいところだけどね(笑)」
 門前仲町で江戸前鮎。豊かな鮎の香りが鼻を抜けると、秋川のせせらぎが聞こえたような気がした。
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今回のロッド&仕掛け
竿は軽快感とパワー・タメ機能を備えた、シリーズ初の短竿専用モデルである、ダイワ「銀影エアSL80」。仕掛けは「トライアン・アユ完全仕掛けU0.2号」オトリ鮎に付ける針には「D-MAX三本イカリ6.5号」を使用している。
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今回の協力店「小峯おとり店」
ベテランの鮎師である小峰和美さんが営む、おとり専門店。鮎シーズン前にはトモ釣り講習会を開催。

東京都あきる野市館谷34
TEL:042-596-1124
ブログ:http://blog.goo.ne.jp/ayu-tateyabaiten
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