美味極楽メインページthe chef and the sea > Vol.02「晩秋のウグイ・オイカワ」編|おもしろい!ハンターになれる釣り
おもしろい! ハンターになれる釣り
the chef and the sea
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1.キャスティングし、エサを付け替え、移動してキャスティング。ひたすら静かに釣りに打ち込むシェフ。2.ターゲットのウグイも4尾釣り上げた。3.川から戻ってきたシェフのタモはこの通り、大漁! 4.いい型のニジマスもシェフの釣果。管理釣り場から脱走したツワモノだったが、シェフの手に落ちた
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まずはエサとなる虫探しからスタート。石の裏側に付いた泥や砂をさらうと、クロカワムシやカゲロウの幼虫を捕まえられる
エサとなる虫探しから
始める魚との勝負

 釣りの達人たちから仕入れた情報にならい、いざ釣りを開始。

 エサは川の中の生き物を捕まえて現地調達することにした。流れのある場所の石をひっくり返し、裏側をさらうと、さまざまな水生の幼虫を採取できる。長野県では食用にされるザザムシとして知られる、通称クロカワムシやヒラカゲロウの幼虫であるチョロムシなどを捕まえた。
「楽しいー! まさか虫探しもできるとは思わなかったなあ。魚たちの普段の食べものを自分で手に入れる。釣り糸を垂らす前から早くも魚と勝負してる気分」
 エサとなる虫を手に入れ、いざ釣りの段になると、シェフは寡黙だった。糸の先が隠れる川面をただ見つめ、微細なアタリを感じ取ろうと、全身を研ぎ澄ませて集中している。
 日差しの暖かな秋の日。太陽は川の中でじっと佇む釣り人の背中をポカポカと温め、水面をキラキラと輝かせる。上流からの涼やかな風が頬を撫で、黄金色のすすきの穂を揺らして去っていく。
 すっと、シェフは竿を立てた。糸の先には金色に光るカワムツ。その小さな魚体と共にシェフは一瞬の笑顔を見せた。が、すぐさま新しいエサを付けて上流へと進んでいく。きっと三平と自分とを重ね合わせているに違いない。
 およそ3時間後、戻ってきたシェフのタモの中にはたくさんの魚がいた。カワムツ、ウグイ、ニジマス……オイカワもいる。取材班のうちで一番の釣果だ。
「おもしろい。これは、おもしろい釣りだ。釣りなんだけど、ハンターになった感覚。できるだけ音を立てず、魚に気付かれないように移動する。上流から針を投げ入れ、流れのある瀬へ持っていく。川の状況を見て、エサが大きすぎやしないか、浮きから針までをもっと長くしてみようとか、試行錯誤しながらの釣り。この山の自然の中で、最高だね。釣具屋の親父さんがいるかもって言ってた、管理釣り場から逃げて野生化したニジマスも釣れたよ。僕、炭を持ってきたんだ。メシにしようか」
 どう見てもオイカワには太すぎる立派な竹串も持参したシェフ。その竹串にぴったりサイズのニジマスも釣り上げてしまうところが、三平イズムを継承する男の気合。ほかの釣り人から鮎を分けてもらうという幸運も重なり、ニジマスの炭火焼き、鮎のさんが焼き、カワムツの味噌汁と、思いがけず豪勢な昼ご飯となった。
 シェフも初挑戦の味噌汁をいただく。ウロコと内臓をとったカワムツは骨ごとぶつ切りにして大根と共に投入。ゆず胡椒が隠し味だ。臭みはまったくなく、しっかりとしたダシが出ている。 古来”味は下の下なり“と言われる魚とは思えない。
「きれいな水が流れるところに棲んでいたし、これだけ新鮮だから泥臭くない。川魚は皮の下のゼラチン質が独特の匂いの元だから、皮を取ってあげるといいのだけど、ここまで小さいと面倒だよね。それならいっそ臭みを消す具や調味料と煮て、まるごと味わってしまおうという発想」
 好きな味噌汁の具がひとつ増えました。ありがとうございます。
 シェフは急いで食事を済ませると、また川へ入り、日没ギリギリまで釣りに没頭した。後ろ髪を引かれるように岸に上がってきたシェフは、「向こうの瀬でもオイカワが釣れたよ」と、ピンクの縞模様が入った美しい魚体を誇らしげに見せてくれた。
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1.まな板も使わずニジマスのウロコと内臓を取り、串を打つ。「お、糸が残ってる」と、愛用の包丁は口でキープ。2.ニジマスは腹の中に味噌を塗って塩焼き。鮎は万願寺唐辛子に詰めてさんが焼き。カワムツは味噌汁になった
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いつの間にか初対面でも仲良しに。シェフの飾らない人柄と美味しい料理には人を集める力がある。
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川魚を堪能する、
合理的な伝統調理法

―――シェフ、イタリアではどんな川魚を食べるんですか?

「イタリアに限らず、ヨーロッパで一般的に食べられている川魚ってマスくらいじゃないかな。昔から牧畜が発達しているから、動物性たんぱく質を川魚から摂らなくてもいいという事情もあるだろうね。ウナギを食べるところはあるけど、ぬめりも取らずに煮込んじゃったりして、正直、料理としてはいまひとつ。その点、日本はウナギや鯉、鮎をはじめとするほとんどの川魚で高度な調理法が確立さてれている。そういった伝統調理法を見直すと、寄生虫の心配を排除しながら、美味しさを引き出す合理的な方法だとわかるんだ。僕はそこにイタリアンの技法を加えて、日本にもイタリアにもなかった料理を作りたい」
 かくしてシェフはオイカワやウグイ、カワムツを使ってエスカベーチェとフリテッレの2品を作り上げた。日本風に言うなら、「南蛮漬け」と「おやき」だ。
「身が柔らかい、皮の下に特有の匂いがあるという弱点も素揚げして香ばしくして使うエスカベーチェなら問題なし。アジやイワシとはまた違った味わいになったね。山の魚だから山村で受け継がれる料理にしたいと思って作ったのがこのおやき。(ひと口食べて)お、オイカワ全然いける!」
 シェフの好きな食材リストにオイカワが加わった瞬間だ。
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