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【第8回】〜シリーズ東京湾 vol.2〜カタクチイワシ|人間以外も喜ぶ 海の米“カタクチイワシ”
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イワシは日本人にとって“海の米”である
 横浜港。そのもっとも外海側に位置する本牧埠頭。この本牧埠頭に張りつくような細くて長い桟橋の上で、ウエカツたちは釣り竿を握っていた。
 その桟橋は『横浜フィッシングピアーズ 本牧海づり施設』。
 今や全国に数多く存在する、いわゆる海釣り公園の中でも、都心からのアクセスのよさや安定した釣果から、年間14万人もの来客数を誇るという人気施設である。
 今回ウエカツは、この本牧海釣り施設にカタクチイワシを求めてやって来た。
 とはいえ今回の釣りは求める≠ネどという大げさな単語を使うほど苦労を伴うものではなかった。ほぼ入れ食い状態で、次から次へとおもしろいようにイワシは釣れるのである。
 2時間ちょっとの釣りで、おそらくウエカツ一人の釣果でもゆうに2百匹は超えていただろう。
 しかし、そんな大漁に恵まれるのは、なにもウエカツやダイワの小堀友理華といった腕のある釣り師ばかりにかぎった話ではない。
 ここ、本牧海釣り施設では、小学生も、釣りを始めたばかりの若い女性も、皆、いとも簡単にイワシを大漁に釣っていく。東京湾の中でも周年、カタクチイワシがいる釣り公園は珍しく、いまや目玉≠フ釣り物となっている。
 まるで運動会の万国旗のようにイワシをズラズラーッと仕掛けに連ねて釣り上げていく。
「この、老若男女誰しもが東京湾で釣って、楽しめて、味わえるっていうのがいいんだよね」
 ウエカツはいう。
「しかもイワシに関していうと、喜んでいるのは、決して人間だけじゃないよ」
人間以外もイワシを喜んでいる≠ニはいったいどういうことだろう。
 カタクチイワシというのは、卵、稚魚、そして成魚という全ての段階で、海中の様々な生物にエサとして食べられている。こんな境遇の魚は、他にはあまり見当たらない。すべての段階で、海の中のあらゆる動物に食べられている。すなわち、あらゆる動物の生命の糧となっている。これはいわば海の米≠ナある。
「ま、日本人的にいうとだけどね。欧米の連中に海の米≠ネんていったってぴんとこねェだろうけどさ」
 イワシにはもうひとつ面白いことがある。カタクチイワシと並ぶ、もうひとつメジャーなイワシにマイワシ≠ェいるが、このマイワシとカタクチイワシは相互的な増え方減り方をしているというのだ。
 どういうことかというと、カタクチイワシの数が増えると、マイワシが減り、マイワシの数が増えるとカタクチイワシが減っているということのようなのだ。
イワシがいるからこそ、東京湾は美食の海なのだ
食物連鎖の下層にいる最初の動物資源
 この2種を併せた水揚げの総量に毎年大きな変化はないが、その総量の中での2種の比率は、数年?数十年のサイクルで変わっており、これはイワシの資源交代とも呼ばれている。ちなみに今はカタクチイワシが優勢で、マイワシは劣勢に甘んじている。
 最後にマイワシが優勢だったピークは1988年のこと。
「それ以前は東京湾でマイワシといえばちょっとしたブランドでね。有名なのは、千葉の船橋漁港が巻き網で獲ってくる丸々太ったマイワシ」
 では、マイワシが獲れなくなった今、千葉の船橋漁港はどうしているのか? むろんカタクチイワシを獲っている。そして目刺しや煮干しなどに加工している。
 マイワシのようなブランド性はないかもしれないが、そこは同じイワシの仲間。人間にとって人気のある大事な食物資源なのだ。
「マイワシにしてもカタクチイワシにしても、イワシ類の重要なところは、人間の食べられないものを、人間の食べられる形にしてくれている最初の動物≠セということだね」
 つまりこういうことだ。海中には栄養が溶け込んでいて、それを元にプランクトンなどのような、人間の食物にはならないほどの小さな生物がたくさん育っている。食物連鎖のピラミッドでいえば一番下の層にいる生物たちだ。
 そして、そのすぐ上の層にいるのが、イワシたち。プランクトンや人間の食べない小さな生物をエサにしているワケであるが、このイワシの層になって初めて、人間が食べられるかたちになってくる。
 ようするにイワシの類は、食物連鎖でもっとも下層にいる、人間の食べられるものということだ。
「この食物連鎖の下方にいる食用生物にはふたつ重要な意味がある。まず有害物質が少ないんだな」
 水銀やPCB、ダイオキシンなどに、もし海が汚染されていれば、魚にも有害物質が含まれていることがある。だが、含まれる数値は、食物連鎖のピラミッドにおいて下位にいればいるほど低いのだ。
 イワシの稚魚はアジに食べられ、小アジはサバに食べられ、サバはマグロに食べられ…。そうやってドンドン食べられていくうちに、有害物質は、魚の体内に蓄積、濃縮される、これを生物濃縮という。
 イワシは下層にいるがゆえに、有害物質が蓄積、濃縮されていくという現象が極めて起こりにくいというわけだ。
「そういう点でもイワシには、極めて安全安心な世界があるんだな」
 けして魚だからいうワケではないが、まさしく目からウロコが落ちるような話である。
「もうひとつ! 最近流行の食育という点でもイワシは極めて重要な食材だと思う」
 ウエカツがいうには、離乳食期には、焼いたイワシの身をほぐし、野菜と煮て食べさせることができる。そしてちょっと歯が生えてきたならば、焼いたものをそのまま、
「ちょっとかじってごらん」と与えてみる。ここで骨の噛み方も教える。箸を持てるようになったら、骨と身をはがすことで箸の使い方の練習にもなる。
「食育上、大変よろしい食物がイワシなんだな。それにカルシウムも豊富。体に良い不飽和脂肪酸を含んでいるし」
 海に関する限り、イワシの恩恵を受けていない生物はほとんどいない。そして人間も、長い歴史の中で多くの恩恵をイワシから受けているのだ。海ばかりではない。日本の綿花産業が発達したのは、干したイワシが肥料として貢献した結果にほかならない。
 その恩恵は日本だけにとどまらない。
 ヨーロッパ全域で食べられるオイルサーディン。イタリアではアンチョビの塩漬け。東南アジアではタイのナンプラーにベトナムのニョクマム。
 ただの食材だけではなく、その国の料理のキモともいえる調味料の原料にまでなっている。
「カタクチイワシ釣りのポイント」
 一般に「サビキ」と呼ばれる魚の皮やゴム片などでエサを模した擬餌針を5〜10本付けた仕掛けで釣ります。このサビキの針の大きさと材質が釣果を左右します。アミ(小さなエビ)を寄せエサにした場合はピンクのゴム製。シラスなどを追いかけているときは魚皮製など状況にあわせます。あと、サビキを選ぶ際に気にして欲しいのが環境への配慮。何本も釣り針が付いているので、切れたりして海中に残るとやっかいなゴミになってしまいます。そんなこともあり、今回の横浜本牧など人気のある釣り場では、海中のバクテリアで二酸化炭素と水に分解する生分解のサビキの使用をすすめています。
 釣り方は、多くの群れがいる時は至って簡単。釣れだすと一度に何匹も掛かるので、いかに糸を絡ませずにトラブルなく釣るかが結果になります。周囲が釣れていて自分だけが釣れない時は、魚の遊泳層と仕掛けの位置がずれている場合があるので、深め浅めと試してみるのがコツです。
この日の仕掛け&タックル
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ロッドとリールはオールインワンコンセプトかつオールマイティーなベストセラータックル『DV1』!! 仕掛けはダイワの『海釣り公園サビキ完全仕掛け』以外に選択の余地なし。生分解ラインで環境にもやさしいのだ!
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